社会保険料の企業負担分の帰着
今井亮一
2008年5月26日 開始
2008年6月3日 更新
今井のコメント： 日本経済学会春季大会（東北大学、2008年5月31日）
○○先生
土曜日は懇親会を含めありがとうございました。
本日は、私のコメント用スライドをお送りします。その後、給与税と所得税を含む簡単なナッシュ交渉モデルを、あらためてきちんと解いてみました。その結果は、（よく考えれば当然なんですが）一見、衝撃的なものです。
まず、所得税は、どのように調整しようとも、まったく賃金や雇用に影響を与えません。次に給与税は、雇用には影響を与えないが、賃金を引き下げます。
これは、このモデルでは労働の不効用が考慮されておらず、ただ賃金総額（＝賃金×雇用）のみが労働組合の目的だからです。雇用が増えれば一人当たり賃金は下がりますが、賃金総額は、もっとも多く生産する時に最大化されます。すなわち、労働者は限界生産性がゼロになるところまで最大限雇用され、いかなる税金の影響も受けません。
つまり、労働時間が決まっていて、雇用人数のみが調整されるような場合には、労使交渉によって最大限の雇用が実現し、これには税金や社会保険料は関係しない、ということです。一方、社会保険料の企業負担分を消費税に置き換えれば、企業負担分は100％労働者に還元されるということになり、岩本さんたちの議論が正当化されます。
参考文献
以下は、フツーの均衡モデルによる、日本の分析。
THE ESTIMATION OF THE INCIDENCE OF EMPLOYER CONTRIBUTIONS TO SOCIAL SECURITY IN JAPAN* - 全 5 バージョン»
T TACHIBANAKI, Y YOKOYAMA - Japanese Economic Review, 2008 - Blackwell SynergyWho bears the burden of social insurance? Evidence from Japanese health and long-term care insurance … 全 3 バージョン»
K Komamura, A Yamada - Journal of The Japanese and International Economies, 2004 - Elsevier[PDF] 社会保険料負担の帰着分析-経済学的考察
岩本康志， 濱秋純哉 - eu-tokyo.ac.jp
Page 1. 社会保険料負担の帰着分析 −経済学的考察− 岩本 康志 濱秋 純哉
東京大学大学院経済学研究科 ２００６年１１月 本稿は，『季刊社会保障研究』
第 42 巻第３号（2006 年 12 月）に掲載予定である。
次は、低所得者への補助の便益を強調している珍しい論文。
Low-Wage Employment Subsidies versus the Welfare State 全 4 バージョン»
ES Phelps - American Economic Review, 1994 - JSTOR
以下はサーチ理論で雇用課税の効果を論じたもの。
A quantitative evaluation of payroll tax subsidies for low-wage workers: An equilibrium search … 全 3 バージョン»
A Chéron, JO Hairault, F Langot - Journal of Public Economics, 2008 - ElsevierEquilibrium Search Unemployment, Endogenous Participation, And Labor Market Flows 全 11 バージョン»
P Garibaldi, E Wasmer - Journal of the European Economic Association, 2005 - MIT Press
団体交渉のモデル
Wage Bargaining and Employment 全 2 バージョン»
IM McDonald, RM Solow - American Economic Review, 1981 - JSTORWages and Employment in a Segmented Labor Market . - 全 2 バージョン»
IM McDonald, RM Solow - Quarterly Journal of Economics, 1985 - JSTORWage Bargaining and the Phillips Curve: The Identification and Specification of Aggregate Wage … 全 4 バージョン»
A Manning - Economic Journal, 1993 - JSTORThe Determinants of Wage Pressure: Some Implications of a Dynamic Model 全 2 バージョン»
A Manning - Economica, 1991 - JSTOR